大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(ネ)159号 判決 1984年7月12日

控訴人 東京トヨペット株式会社

右代表者代表取締役 牧野功

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 田中登

被控訴人 古閑隆憲

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 永野謙丸

同 真山泰

同 保田雄太郎

同 根岸清一

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人らは、各自、被控訴人古閑隆憲に対し金八七二万一三九一円及び内金七九二万一三九一円に対する昭和五七年八月一一日から、内金八〇万円に対する昭和五八年二月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、被控訴人古閑明代に対し金七六九万八一六一円及び内金六九九万八一六一円に対する昭和五七年八月一一日から、内金七〇万円に対する昭和五八年二月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らの控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める判決

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実(事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、控訴人会社の運行供用者責任について判断する。

控訴人石黒本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人会社には、社員自家用車制度があり、その概要は、①主としてセールスマン等外勤の社員が控訴人会社から新車又は中古車を購入することができ(通常価格より安く購入することができる。)、②月賦で購入する場合は完済まで所有権は控訴人会社に留保され、③業務用又は自家用に使用することができ、④税金、自賠責保険料及び修理費は社員が負担するが、⑤業務用に使用した場合には、控訴人会社から一定限度内でガソリン給油券が支給され、⑥社員は任意保険(車両、対人、対物、搭乗者)の加入が義務付けられるが、車両保険を除く保険の保険料の一部を控訴人会社が負担し、⑦購入後一定期間(新車で一二か月、中古車で六か月)は車両を処分することができず、売却ができる場合であっても、原則として会社に対し売却する、というものである。控訴人石黒は、昭和五六年四月一日控訴人会社に入社し、セールスマンとして勤務していたものであるが、右社員自家用車制度に従って、昭和五七年一月新車であった本件加害車を二年月賦で購入し、業務用及び自家用(その割合は七対三ないし六対四位で業務用の方が多かった。)として利用していたこと、本件加害車の所有権は月賦完済まで控訴人会社に留保されたため、控訴人会社の所有名義となっており、また、控訴人会社から控訴人石黒に対し、本件加害車を業務用にも使用するため、毎月一二〇リットル分のガソリン券が支給されていたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人会社は単に割賦売買代金債権の確保のために本件加害車の所有権を留保していた名義人というにとどまらず、本件加害車を自己の業務執行のため日常継続的に利用していたものというべきであるから、本件加害車に対し運行支配を及ぼしていたものと認めるのが相当である。そして、本件加害車が継続的に控訴人会社の業務に使用されていた以上、たまたま本件事故が控訴人会社の夏休期間中に控訴人石黒の私的な目的に利用されている時に発生したものであったとしても、控訴人会社の自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者としての責任を認めることの妨げとなるものではなく、控訴人会社は、同条本文の規定により本件事故による損害を賠償する責任があるものというべきである。

三  また、控訴人石黒が、最高速度を時速四〇キロメートルに制限された本件事故現場の道路を猛スピードで右折しようとして自車を暴走させた重過失により本件事故を起こしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件加害車の事故時の速度は時速九〇ないし一〇〇キロメートルであったと認められる。

右事実によれば、控訴人石黒は、民法七〇九条の規定による不法行為責任を負うことは明らかである。(控訴人石黒に民法七〇九条による責任のあることは控訴人らも争わないところである。)。

四  そこで進んで損害について判断する。

被控訴人らが亡真由美の父母であり相続人であることは、当事者間に争いがない。

1  病院関係費用

《証拠省略》によれば、被控訴人隆憲は、稲城市立病院に対し亡真由美の処置料として金一万四、二三〇円、土方領郎医師に対し文書料として金九、〇〇〇円、合計金二万三、二三〇円の支払をし、同額の損害を蒙ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  葬儀費用等

《証拠省略》によれば、被控訴人隆憲は、亡真由美の葬儀費用、仏壇仏具購入費、墓碑建立費等として相当額の出費をしていることが認められるが、その中には相当性、必要性の見地から疑問なしとしないものがあり、本件事故と相当因果関係ある損害としての葬儀関係費用(仏壇仏具購入費、墓碑建立費等を含む。)としては、金九〇万円を相当と認める。

3  逸失利益

《証拠省略》によれば、亡真由美は、昭和五七年三月一日に学校法人八王子学園八王子高等学校を卒業し、同年四月から東京都渋谷区代々木一丁目五六番地所在の学校法人専門学校東京スクール・オブ・ビジネスのビジネス専門課程秘書科(二年課程)に在籍し、タイプその他諸々の実務教育を受けていた事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、亡真由美は、東京スクール・オブ・ビジネスを卒業する予定の昭和五九年四月から稼働し、六七歳までの四七年間にわたり、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計の女子労働者、高専・短大卒の全年齢平均の年間給与額金二三二万六、三〇〇円程度の収入を得られる蓋然性があったものと推認するのが相当であり、生活費としては四〇パーセントを控除するの相当であり、中間利息をライプニッツ方式により控除(死亡時一九歳、就労開始時二〇歳であるから、係数は四八年のものから一年のものを差し引いた一七・一二四八となる。)して算定すると、亡真由美の逸失利益は、金二三九〇万二四五三円であることが認められ、したがって、被控訴人らは、亡真由美の相続人父母として、それぞれ右逸失利益の二分の一である金一一九五万一二二六円を取得したこととなる。

4  慰謝料

本件事故の態様、亡真由美の年齢、家族関係、その他一切の事情を考慮すると、被控訴人らの慰謝料は各金六五〇万円を相当とするが、本件においては、後記のとおり、慰謝料について二〇パーセントのいわゆる好意同乗による減額を相当とするから、その金額は各金五二〇万円となる。

5  損害の填補

被控訴人らが控訴人石黒及びその父親から合計金二九万円、自賠責保険から金二、〇〇一万六、一三〇円の支払を受け、その半額の各金一、〇一五万三、〇六五円宛損害に充当したことは、当事者間に争いがない。

なお、被控訴人らは、搭乗者傷害保険金として受領した金五〇〇万円について、当初損害から右金額を控除しながら、後になってこれを撤回したのであるが、これに対し、控訴人らは異議を述べている。思うに、被控訴人らの右撤回は、搭乗者傷害保険金の受領の事実自体を否定するのではなく、当初、右保険金の法律的性質が損害の填補性を有するものと解して損害からこれを控除していたのに対し、右法律的性質の評価が誤解に基づくものでありこれを損害から控除したことが誤りであるので、その評価を改め損害から控除しないと主張するにあるものと解され、したがって、事実についての自白を撤回するものではなく、右保険金が損害を填補するかどうかの評価を改めるにすぎないものというべきところ、自動車保険約款の搭乗者傷害条項によれば、搭乗者傷害保険は、自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者を被保険者とし、その受傷(死亡を含む)に対して定額の保険金を支払うものであり、しかも、右保険金については保険代位が否定されているのであって、自動車の所有、使用等により被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を填補する性質のものとは解されないから、右金額は損害から控除すべきものではなく、右撤回は許されるべきである。

6  弁護士費用

被控訴人らが前記損害金の任意の支払を受けられないため、本件訴訟の提起、遂行を被控訴人ら訴訟代理人弁護士に委任することを余儀なくされたことは、弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件訴訟の難易、前記認容額、訴訟の経緯、控訴人らの対応その他諸般の事情を考慮すると、控訴人らに賠償を求め得る本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、被控訴人隆憲について金八〇万円、被控訴人明代について金七〇万円を相当と認める。

五  次に、控訴人らの好意同乗等による減額の主張について判断する。

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

控訴人石黒と亡真由美は、カウボーイスクール(富士山麓朝霧高原に牧場施設を有する民間の青少年自然教育の組織で、毎年夏休みに約七〇名の小中学生を集めて開催され、先輩の高大学生がリーダーとして数名参加する。これまで三〇期の歴史がある。)の先輩後輩の間柄であり、事故当日控訴人石黒は、朝霧高原から帰京するカウボーイスクールの生徒らを出迎えた後、現役のリーダーであるが、生徒より先に帰京していた亡真由美、同じく訴外西村及び当日帰京した訴外小栗らと、リーダーの反省会に出席し、それが終ってから、亡真由美、訴外西村及び訴外小栗の三名を本件加害車で送って行くことになった。

控訴人石黒は、まず亡真由美を送るべく、走行を続け、午後九時三〇分ころ登戸の多摩水道橋を渡ったあたりで、亡真由美から自宅の門限が午後一〇時であることを告げられたが、その数キロメートル先で車両の渋滞にあい、思うように進めなかったため、道路が空くようになると速度をあげ、時速一〇〇キロメートル前後で走行を開始した。そのため、本件加害車の速度警告チャイムが鳴り出したが、亡真由美ら同乗者から格別制止はなかった。控訴人石黒は、事故現場手前のS字状カーブで時速六〇キロメートル位に速度を落とし、そこを通過して再び加速を開始し、時速九〇ないし一〇〇キロメートルに至ったころ、本件事故が発生した。

控訴人らは、本件加害車の速度超過を亡真由美らが黙認していたと主張し、同乗者らが格別の制止をしなかったことは前記認定のとおりであるが、右同乗者らは控訴人石黒の好意により本件加害車に同乗させてもらっていたことからあえて制止行動をとらなかったにすぎないものと考えられ、右同乗者らの態度をもって速度超過を黙認したというには当たらないというべきである。

右事実関係によれば、本件における好意同乗等による減額は、亡真由美の全損害額について斟酌することは適当でなく、前記のとおり慰謝料額についてのみ二〇パーセントの減額をするのを相当と認める。

六  以上のとおりであるから、控訴人らは各自、被控訴人隆憲に対し損害金八七二万一三九一円及び内金七九二万一三九一円に対する本件事故発生日である昭和五七年八月一一日から、内金八〇万円(弁護士費用)に対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年二月三日から、被控訴人明代に対し損害金七六九万八一六一円及び内金六九九万八一六一円に対する昭和五七年八月一一日から、内金七〇万円(弁護士費用)に対する昭和五八年二月三日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よって、被控訴人らの本訴請求は、右の額の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分はいずれも理由がないから棄却すべきものであり、これと異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 越山安久 村上敬一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例